Wi-Fi 6は、既に到来しています。行動を起こす時ではありませんか?

過去2年間で最も影響力のある無線技術を挙げるならば、何と言っても5Gでしょう。しかし、5Gが急拡大する中で、他の無線技術がサボっているわけではありません。事実、各技術がマーケットシェアを拡大する機会を常に模索しつつ、激しさを増す競争の中で市場での地位を手に入れることを望み、それぞれの方向で進展しています。
2019年9月、Wi-Fi Allianceは、Wi-Fi CERTIFIED 6™の使用を正式に承認したと発表しましたが、これはWi-Fi 6の利用が既に始まっていることを意味します。これにより、注目されることなく以前から私たちの傍にあるにも関わらず最初に早期されることがほとんどないWi-Fiに再び焦点が当たります。
常に高まる速度
Wi-Fiの開発の歴史を顧みると分かりますが、Wi-Fiの元々の発想は、無線LANによるデータ伝送の確固たる規格を定めることではなく、単に店舗内のレジを接続する面倒な配線の問題を解決する無線技術を開発することにありました。ただし、この技術の価値は、すぐに認識され、間もなく国際規格IEEE 802.11となりました。Wi-Fiは、PCの台頭とPCメーカーのサポートが相まって、最終的にLANにおける大容量の無線データ伝送の唯一の選択肢となりました。
Wi-Fiは、無線の便利さがありますが、そのデータ伝送速度は、急発展するイーサネット技術と常に比較されてきました。結局、高速化は、常にWi-Fi技術開発の中心を占めてきました。結果的に、Wi-Fiは、私たちを失望させていません。
Wi-Fi規格は、2.4 GHz UHFまたは5 GHz SHF ISMの無線周波数帯域で稼働する無線LAN技術として、5つのアップグレードを繰り返してきました。
- 最初のWi-Fi規格は、1999年に定められました(802.11b)。これは2.4 GHzで稼働し、最高11 Mbpsのデータ伝送速度が可能であり、Wi-Fiの商用化の土台となりました。
- 第2世代のより高速のWi-Fiは、同じ期間に発表されました(802.11a)。達成できる最高伝送速度は、54 Mbpsでした。しかし、これは5 GHzで稼働し、802.11bと互換性がなかったため、特殊な分野でのみ使用されました。
- 第3世代のWi-Fiは、2003年に導入されました(802.11g)。これは2.4 GHzで稼働し、伝送速度54 Mbpsを達成しました。これは下位互換性があり、Wi-Fiの性能を新たなレベルへ高めました。
- 第4世代のWi-Fiは、2009年に発表されました(802.11n)。これは2.4 GHzおよび5 GHzで稼働できました。二倍幅のチャネル(40 MHz)と4本のアンテナを使用すれば、最高600 Mbpsのデータ伝送速度を達成できます。
- 第5世代のWi-Fiは、2016年に発表されました(802.11ac wave2)。これは802.11nを拡張し、5 GHz帯域幅を最適化したものです。2.4 GHz帯域幅では、前世代と下位互換性があり、最高1.73 Gbpsのデータ伝送速度を達成できます。
図1:Wi-Fi規格の開発および比較(提供: NXP)
Wi-Fi 6は、Wi-Fi Allianceにより発表された第6世代の規格です。技術的観点から見ると、Wi-Fi 6は、データを1人のユーザーへ送信する場合、802.11acより37%高速です。また、そのスループットは、さまざまな新しい技術を組み合わせることで4倍増加し、10 Gbpsという驚くべきデータ伝送速度を達成できると期待されています。これによりWi-Fiユーザー体験は、前例のない新たなレベルへ高まると言ってよいでしょう。
高速化だけに留まらない
Wi-Fi 6を単に高速のWi-fi 5と思っている方は、お考え直しください。事実、Wi-Fi Allianceは、Wi-Fi 6に多くの新技術を詰め込んでいます。中身を知った方は、本当に驚くでしょう。 その主な技術を下記にまとめます。
- OFDMA
Wi-Fi 6は、アップロードおよびダウンロードにOFDMA(直交周波数分割多元接続)技術を使用します。これにより、最大30人のユーザーがチャネルを共有することができ、遅延が減り、容量が増え、効率性が向上します。そのため、Wi-Fi 6は、セルラーネットワークもはるかに安定しています。従来のWi-Fi規格は「ベストエフォート」のアプローチを採用しており、Wi-Fi信号が強くても接続できない場合があり、ユーザー体験が大幅に損なわれていました。OFDMA技術は、ネットワークの安定性と信頼性の向上をもたらし、Wi-Fi 6のより多様な用途を実現できます。
- MU-MIMO
MU-MIMOはWi-Fi 6で導入された新しい技術ではありませんが、過去の世代の規格を大幅に最適化します。MU-MIMOをWi-Fi 5 Wave 2へ導入した場合、4つのダウンロード接続と1つのアップロード接続のみをサポートします。現在Wi-Fi 6は、最大8個のアップロードおよびダウンロード接続で複数のユーザーをサポートできます。
- 1024-QAM
Wi-Fi 6は、変調方法として1024-QAMを使用し、各有効負荷で送信されるデータ量を増やします。それと比較して、Wi-Fi 5は256-QAMを使用し、Wi-Fi 4は64-QAMを使用して、各データパケットのデータ量を増やし、スループットを高めます。1024-QAMにおける各OFDMシンボルは10ビットを使用しますが、これは256-QAMの8ビットと比較して25%増です。これにより、80 MHzチャネルの理論的なデータ伝送速度は39%増の600 Mbpsまで高速化します。
- 動的フラグメンテーション
Wi-Fi 5で使用される静的フラグメンテーションと比較して、Wi-Fi 6で使用される動的フラグメンテーションでは、異なるサイズのデータパケットのフラグメント化が可能であり、ネットワークリソースの活用度が高まります。
- ターゲット起動時間(TWT)
従来のWi-Fi世代は節電のために定期的なスケジュールを使用し、決まった時間に機器を起動してデータを送信し、その後スリープモードに戻っていました。しかし、機器は送信するデータがない場合でも起動されることがあるため、電力の無駄遣いにつながっていました。Wi-Fi 6の新しいターゲット起動時間(TWT)機能は、端末とネットワーク間で交渉される要件に基づいて起動時間を決定し、それにより消費電力を最小限に抑えてBLEレベルに達することもできます。これにより、消費電力が大きいというWi-Fiに対する人々の見方が変わるでしょう。
図2:Wi-Fi 6の主な技術の概要(画像提供:Wi-Fi Alliance)
Wi-Fi 6は1台の機器のピーク速度を高めることに加え、他の2つの分野で重要な優位性を手に入れることを目指しています。まず、大量の異なる種類の製品を網羅して接続することを目指しています。次に、接続の密度を高めることによりスループットと信頼性の向上を目指しています。このすべての理由および他の理由により、Wi-Fi 6は屋内の無線ネットワークに大きなイノベーションをもたらす潜在性があります。
新たな分野への適用
新しいバージョンが発表された背景には、重要な商業的判断があります。Wi-Fi 6における改善点を考慮すると、Wi-Fiは多くのユーザーのサポート、高速化、および信頼性向上により、新しい商業用途への可能性を切り開くことが期待できます。Wi-Fiは、これまで「特殊」とみなされていた一部の低消費電力の用途にも応用し、新たな使用体験を提供できます。
Wi-Fi 6と5Gネットワークの関係では市場が重複しているにも関わらず、Wi-Fi 6はその補完性が目を引きます。事実、Wi-Fi 6と5Gにはそれぞれ長所があります。5Gネットワークで使用されている高い周波数は、屋外での干渉が少ないものの屋内では簡単に減衰し、ネットワークの導入と保守の費用が高くなります。逆にWi-Fi 6は、屋内、信号の密度が高い場所、およびローカル・エリア・ネットワークにより適しています。また、導入と保守の費用も低いです。したがって、屋内のセルラー信号が限られている場合でも5Gサービスを使い続けることができるように、Wi-Fi 6ルーターを5G用の小規模な屋内基地局として使用することを検討している人々もいます。携帯電話は、2種類の無線通信を切り換えることができます。
Wi-Fi 6の導入後に期待されるもう1つの傾向は、6 GHzの周波数帯域の使用であり、これはより高速で信頼性の高い接続を意味します。将来は、ハイブリッドのWi-Fiネットワーク構造が現れると予測している人もいます。つまり、干渉が少ない高速の6 GHzの周波数帯域をバックボーンとして、屋内の端末間の接続に2.4 GHz+5 GHzを使用できる2つのネットワークを用いたLANです。
現在、Wi-Fi 6は揺籃期にあり、商業的な潜在性は垣間見るにすぎませんが、2020年にはより多くのことが明らかになるでしょう。新製品が驚くほどの早さで導入され、一連の吸収・合併により業界が揺さぶられる可能性があります。現在、すべての参入企業が市場での地位を獲得するためにひしめき合っています。これほど多くのことが起きているのです。今、行動を起こすことを考えてみてはいかがでしょうか?

