インダストリアルIoTに関する設計エンジニア向けガイド

本ガイドでは、インダストリアルオートメーションおよび製造、メンテナンスおよび分析、品質管理、物流およびサプライチェーンに対するIIoTの影響について見ていきます。これに関連して、特に無線と有線を中心にセンシングと接続性の分野についても考察します。

IIoTでは、引き続きコミュニケーションと接続性が焦点となっています。もちろん、人工知能(AI)に加え、3Dプリントやその他の付加的な製造システムなど、さらなる技術も産業用IoTの普及を後押しするでしょう。しかし、それらはその影響を最大限に引き出すためのデータ共有にかかっています。

ここでは、既存の産業プロセスをインテリジェント化し、そのインターネット接続を拡充する方法に注目します。これはセンサから始まり、クラウドに移動し、アクチュエータに戻ってきます(以下の図1)。主な用語は以下の通りです。

  • センサ-温度や圧力といった物理的な特性を計測し、多くの場合は一度に複数の物理的特性を計測できます。センサーは通常、アナログまたは増加しつつあるデジタルフォーマットによって、データをゲートウェイまたはエッジコンピュータに転送します。
  • アクチュエータ-ゲートウェイまたはエッジコンピュータからの制御情報を各種動作(直線や回転など)に転換させます。アクチュエータは、ロボットのアーム、コンベヤベルト、ドージング装置などの動作を提供します。
  • ゲートウェイ-データの収集/分散を担い、一般的にはあるネットワーキング技術(HARTまたはBluetoothなど)を別のネットワーキング技術(産業用イーサネットなど)とつなぎます。
  • エッジコンピューティング-ローカルのコンピューティングリソースで、センサーやアクチュエータとの近接性を生かし、レイテンシを最小限に抑えながら、受信したセンサーのデータをもとにリアルタイムで機器の制御を行います。
  • クラウドコンピューティング-オフサイトのコンピューティングリソースで、通常はサードパーティプロバイダーによってホストされています。必要に応じてコンピューティングパワーとストレージを「弾性的に」拡大または縮小できます。通常、場合によってはAIを活用しながら多くのデータセットの分析を行い、産業プロセスのオペレーターがリアルタイムで監視を行う方法を提供します。
  • フォグコンピューティング-オンサイトのコンピューティングおよびストレージリソースを提供し、エッジコンピューティングのパフォーマンスおよびストレージ容量の限界とクラウドコンピューティングリソースの相対的な高レイテンシとのバランスを図ります。

 


図1: IIoTは、エッジ、フォグ、そしてクラウドコンピューティングと幅広い性質の異なるセンサ、アクチュエーターテクノロジーがリンクしている

 

エンジニアがインダストリー4.0のアイディアを実現できるようにするには、過酷な産業環境のニーズを満たすセンシング技術が欠かせません。TE Connectivityによる最近の調査では、IIoTに関心を持つエンジニアを含めエンジニアの29%は、様々なデータをキャプチャする能力がアプリケーションにとって極めて重要になると回答しました。また、26%のエンジニアが、より多くのデータをより迅速に収集することをしっかりと検討しなければならないと感じていました。

これにも、プロセスと機械を監視する小型のインテリジェントなセンサーを実現するための産業ネットワーキング技術の進歩が求められます。ここでは、有望な低レイテンシのワイヤレスネットワーキングである第5世代携帯電話ネットワークが重要な要素であると考えられます。クラウドからエッジまで、相互接続されたセンサ、機械、コンピュータをつなぎ合せる幅広いサービスおよびソフトウェアもまた、大きな要因となるでしょう。

インダストリアルIoTから得られる深い洞察は、人件費の削減から設計エンジニアリング費の抑制まで、製造全体の改善を後押しします。アジアのように人件費が安いとされている国々でも、実際には人件費は上昇しています。モノのインターネットは、機械、センサー、生産ラインをネットワーク化し、パワフルなクラウドベースのコンピューティングを意思決定に参加させることにより、産業自動化をさらに前進させることができます。人材を価値の低いタスクから製造工場の維持管理やそれらのシステムの導入といった認知に基づく興味深い活動に徐々に移行させることができます。

 

ネットワーク化されたインテリジェントなセンサーのおかげで製造プロセスに関する情報がどんどんクラウドに蓄積されることにより、デザイナーは製造における既知の課題を考慮して設計を行うことができるようになります。そうしたデータの共有は、最良の技術やアプローチを生み出し、ひいては材料の効率的な利用や製品品質の改善につながります。


図2:一部の製造工場では、製造アイランド間でワークピースを移動させる AGVがすでに不可欠な存在です (Source: Siemens Ingenuity for Life community thread

 

インダストリアルIoTには、その他にどのような使用事例があるのでしょうか?

突き詰めると、顧客がインターネットから様々なバッチサイズで製品を注文し、必要なカスタマイズをすべて行えるということではないでしょうか。それらの情報は自動的に工場に送られ、ほとんど人間が関与することなく、希望通りの製品が出荷されるのです。これには、直線的なコンベヤベルトによる製造ラインから各生産ステップを実行するアイランド(右の図2)への移行が必要となります。アイランド間のワークピースの移動には、無人搬送車(AGV)を使用します。AGVが各アイランドを訪れる回数やその順番は、顧客からの詳細な注文によって異なります。一部の半導体製造施設では、すでにこのアプローチが採用されています。 1

 

インダストリー4.0によってもたらされる可能性のある最も大きな変化は、恐らく予防的なメンテナンスおよび分析から予測的なメンテナンスおよび分析への移行でしょう。機器が故障する可能性のある時期を計算し、その日が来るまでに運転を停止してメンテナンスを行うのではなく、製造機器が差し迫ったメンテナンスの必要性を自ら登録できるようになると考えられます。

このような新しい予測的メンテナンスの世界では、センサーが非常に重要な役割を果たします。現在は、高速フーリエ変換(FFT)を使用してモーターベアリングの状態を判断し、製造機器の異常な振動数2を検知できるセンサーがあります(図3)。エッジベースの人工知能分析に振動とその他の要素(温度、負荷、電流の流れ、電流の動きなど)を合わせて考慮するセンサーを組み合わせることにより、製造環境におけるメンテナンスのアプローチが一変する可能性があります。

こうした洞察をモーター、オーブン、コンベヤの製造業者など、産業用機械のサプライヤーと共有することにより、すべてのユーザーにとっての改善につながることが期待されます。
 


図3:予測的メンテナンスでは、振動センサーでFFTを実行することもモーターベアリングの摩耗を検知する1つの方法です

 

完成した部品を組み立てる段階になるまで、品質上の問題に気づかないということは珍しくありません。そこにたどり着くまでの貴重な材料と生産時間は無駄になります。インダストリー4.0では、使用するセンサーを増やし、クラウドベースのAIを活用することによって、異なるデータセットを評価し、現在は事後に特定されている異常の検知に役立てます。温度や湿度、振動を単一のデバイスにまとめるなど、センサーの高度な統合により、分析に使用できる品質管理のデータベースも拡大します。

AIをカメラなどのエッジに配置すれば、幅広いアプリケーションに対応するインテリジェントなセンシング能力が得られます。こうしたカメラを前述のアイランド型製造アプローチと組み合わせることにより、標準的なワークピースの幅広いカスタマイズに対する目視検査の需要に対応できます。

 

 

多くの企業は、いまだに最も有力な推測に基づいて予測を立てています。完全にクラウドに接続された製造工場では、理論的には受注が計画されていた注文になるということが可能です。その日の注文に基づいてジャスト・イン・タイムで材料の納入を管理し、出荷についても同じように最適化を行います。このようにサプライチェーンを最適化することにより、入荷された状態の原材料や倉庫にある完成品の量を減らせる可能性があります。

Ocado社のような企業は、すでに小売製品の倉庫を高度に自動化していますが、同じ原理を多くの産業製造施設にも適用できます3、4。ここでは、4G携帯電話ネットワークを使用し、航空管制のようなコントロールセンターから自律ロボットピッカーを制御しています(右の図4)。商品および部品のファーストマイルとラストマイルの配送には、AGVを役立てることができます。Starship Technologies社をはじめ、様々な企業が幅広いサプライチェーンへの統合に向けた道筋となるロボット配送サービスの試用を行っています。5


図4:自律的に動作し、出荷に向けて商品の配送の準備をするAGV (Source: https://risnews.com/krogers-weapons-grocery-home-delivery-war)

 

初期の産業用センサーは計測機能に個別のコンポーネントを使用していましたが、現在は高度に統合された低コストの半導体技術を利用することが可能です。各側面が数ミリメートルのデバイスで、圧力、振動、温度などのセンシングを単一のシリコンに統合できるのです。微小電気機械システム(MEMS)技術のおかげで、1µmから100µmの大きさの機構を持つ振動子とカンチレバーでセンサーを構成できます。

こうした微小センサーに加え、較正された正確な出力データを提供するために必要となるすべてのフロントエンドのフィルタリングとアナログからデジタルへの変換を統合します。このような小型の正確なソリューションを導入することにより、現在の限界を超えて、ロボットによるワークピースの非常に正確なポジショニングが可能になります。

産業用センサーの製造業者は、裁量が拡大し、標準的なハウジングにこれまで以上に多くのものを詰め込めるようになります。これには、メンテナンスエンジニアのスマートフォンとデータを共有するためのBluetoothのようなワイヤレス技術や機器に搭載してプロセス分析を容易にするディスプレイなどが含まれます(左の図5)。

特にすべてがネットワーク化された時代には、遠隔装置の保護もセキュリティ上の課題となります。タンパ検知センサー(TDS)を導入すれば、遠隔システムやハードウェアへの望まないアクセスを検出するだけでなく、暗号鍵やアクセス情報などの有用な情報が自動的に消去され、ハードウェアを使用できないようにすることができます。

現在現場で利用されているレガシー装置は、当時のニーズやアプローチに対応していたフィールドバス技術に基づいて構築されています。現在の産業用センサーは、0-5V、0-10V、4-20mAといったアナログ出力基準に引き続き対応しており、処理にはセンサーごとにPLCに接続するためのケーブルが必要です。有線・無線を問わず、デジタルネットワーキング技術は、複数のセンサーを単一のPLCに接続できる方法を提供します。これはつまり、使用するセンシングの量を増やす場合の自由度が高まり、コストが低下するということです。また、他のシステムやクラウドとも容易に共有できます。


図5:TE Connectivity社のM5800圧力センサーには、専用のディスプレイが搭載されています

 

センサーは、非常に長いケーブルで接続されることが多く、セーフティクリティカルなシステムの一部であることもあります。また、温度や水分、湿気などの環境的な要因に関しても、スイッチング回路や溶接工具、モーターによって発生する電気的干渉という点でも、産業環境は過酷です。そのため、コネクタやケーブルも、電気的に安定しているだけでなく、水分や化学物質、そして可能性のある高圧液体洗浄プロセスに対して堅牢である必要があります。

また、コネクタは、振動や予期せず付属ケーブルにかかる力によって望まない切断が起こらないようにしなければなりません。イーサネットやUSBといった既存の接続技術は、フラストレーションが予期せぬ切断の最悪の結果となる自宅やオフィス環境を想定していました。産業用コネクタは、業界標準コネクタの保持力を高めるロック機構を採用し、埃や液体を遮断する侵入保護(IP)等級を導入することにより、そうした結果を予防しています(右の図6)。

耐久性を高めたUSBやRJ45産業用イーサネットコネクタに加え、標準化された様々な産業用マルチピンコネクタも存在します。これらは、デジタルおよびアナログ両方の信号を電力と共に付属のセンサーに転送できるように設計されています。ハードウェアを既存システムに適合させるために、こうしたM8、M12、ミニI/O、D-Subコネクタをどこに使用すればよいかを理解することが重要です。


図6:産業アプリケーションには通常、埃や水分の侵入に耐える堅牢なコネクタが求められます

 

AGVがすでにプロダクション環境にある中、ワイヤレスはますます産業エンジニアが取り組むべき課題となっています。有線接続と同様に、4G携帯電話ネットワークやIEEE 802.11 WLANといった多くの技術が消費者およびオフィスニーズによって促進されてきました。さらに、現在は今後の5G標準化に向けた帯域幅の割り当てが進められており、これがIIoTを実現する主な要因とされています。納入から工場を経て出荷に至るまでの商品の追跡、あるいは製造機器の資産管理まで可能にするワイヤレスの低電力な資産タグも検討しなければなりません。

ここでは、最適な無線機能を備えると同時に過酷な環境条件にも耐えうる革新的なアンテナソリューションが必要となります。最もシンプルな形として、チップアンテナあるいはフレキシブルプリント基板(FPC)への組み込みなど、単一素子アンテナが1つの方法でしょう(図7)。しかし、複数入出力(MiMo)アンテナを使用した無線ソリューションも無線接続における重要な要素となりつつあります。

どのようなアプローチをとるにしても、アプリケーションのRFの側面に取り組むにあたって、多くのエンジニアがサポートと助言を必要としています。多くの場合、使用する材料、環境、アンテナを取り付ける機器を考慮できるカスタムアンテナが最善のアプローチとなります。


図7:カスタムアンテナソリューションは、アプリケーションのニーズに合わせ、FPCに統合または3D造形に適用できます

高感度電子機器には、電磁干渉(EMI)からの保護も必要です。隣接する機器による干渉の影響を制限するためにも、電子システム自体から発生する干渉を低減するためにも、スタンピングされた1ピースまたは2ピースの構成によるボードレベルシールドが求められる可能性があります。

 

まとめ

かつて産業革命がそうであったように、インダストリー4.0も一足飛びの変化ではありません。むしろ、産業製造の新しい効率的なアプローチに向けた段階的な進展と言えるでしょう。多くのアイディアが依然として本質的に概念的なものであることから、IIoTは時に見極めが困難なこともあります。しかし、これまでの継続的な改善プロセスが収穫逓減の段階にあることを産業界が認識するのに伴い、それは変化しつつあります。すでに完全に自動化された倉庫が日常的に稼働し、受注処理を行う一方、一部の都市ではAGVが街を走り、こうした技術の一般への普及に伴う予期せぬ課題を慎重に評価しています。

IIoTに対する最適なアプローチは、それが完全に形になっていなくても、あるいは現在は未解決の課題を含んでいたとしても、可能性のあるアイディアについて率直に議論することです。そのような場合、サプライヤーやパートナーがその経験や技術を生かして顧客をサポートすることは珍しくありません。それは、適切なコネクタを提供するといったシンプルなことかもしれませんし、アンテナの選定や設計、あるいはEMIの課題に対する最適なアプローチに関する詳細なコンサルタントのような複雑なことかもしれません。

出典

  1. https://www.infineon.com/cms/en/discoveries/robots-unleashed/
  2. https://www.weg.net/wegmotorscan/en
  3. https://www.youtube.com/watch?v=XJqsdprXF5c
  4. https://www.youtube.com/watch?v=4DKrcpa8Z_E
  5. https://www.computerweekly.com/news/252451801/Robotic-delivery-service-hits-the-streets-of-Milton-Keynes

 

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